食生活における肉類の役割
近頃は、肉類を摂らない食生活への人気が高まっています。ポーランドの中央統計局の調べによると、国民一人あたりの食肉消費量は、2020年には76.9 kgでしたが、翌年には60 kgまで減少しました。これは、屠畜の実態について偽情報が出回った結果とも考えられます。ごく一般的な消費者は、密封されて店頭の冷蔵庫に陳列された食肉を買い求めていますので、屠畜が実際にどのような環境と手順でなされているのか目にする機会は限られています。このため、肉食に反対する人々にとって、屠畜の実態について偽情報を流して消費者を操作することは至って簡単な状況です。しかし、ポーランドでは、2004年9月9日付け農業・農村開発省規則により、資格のある専門担当者が、家畜の苦痛を最小限に抑えるよう、適切な環境と手順をとって屠畜することが義務付けられています[1]。一方で、菜食主義者は、肉類が健康に悪影響をもたらすという議論も展開しています。
食の歴史
人類の歴史は約7百万年前まで遡ります。ラテン語で賢い人間を意味するホモ・サピエンスが誕生したのは、約20万~18万年前だと考えられています。人類の祖先は、アフリカを移動するうちに、食生活に肉類を取り入れました。これがきっかけとなり、ヒトの進化は加速し、脳の機能が発達しました。植物に比べてより多くエネルギーを蓄えられる肉類も食べるようになってから、ヒトは社会性と知性をさらに高めました。氷河期になると、肉類は食料の50%以上も占めていました。コロラド州立大学の研究によれば、狩猟採取社会では、肉類は食料の三分の二以上を占めていました[2]。そして、人体も肉食に適応するように進化したという根拠もいくつか挙げられています。その代表例は、ヒトの膵臓は、動物細胞の細胞外基質であるコラーゲンを分解できるよう、コラーゲナーゼを分泌するという事実です[3]。
肉類に含まれる栄養素は?
肉類にはタンパク質、脂質、炭水化物、そしてさまざまなミネラル類が含まれています。タンパク質は細胞や組織を作る材料となり、全身の正しい機能を確保するために欠かせません。タンパク質の摂取が不十分だと、体内での酵素の形成と機能が阻害されます。タンパク質は、表皮再生、髪と爪の発育のペースの決定要因となるほか、体内の酸とアルカリのバランスを整えます。タンパク質を構成するアミノ酸は、体内で合成できる非必須アミノ酸と、合成できない必須アミノ酸とに分けられます。メチオニン、リシン、バリンなどの必須アミノ酸は、ホルモン分泌、神経系、筋肉、そして新陳代謝の正しい機能に不可欠なため、食事で摂取しなければなりません。しかしながら、どんなタンパク質でも必須アミノ酸をバランスよく適量含んでいるという訳ではありません。ほぼ万能なタンパク質は肉類から摂取できる一方、穀物由来のタンパク質では、いずれかの必須アミノ酸が不足しがちです[3]。
肉類に含まれるミネラルの代表格は、吸収性の高いヘム鉄です。鉄分は筋肉や臓器に酸素を届ける重要な役割を担い、神経系や免疫系の正しい機能に欠かせません。肉類に含まれる鉄分のうち、45%は吸収率が35%にのぼるヘム鉄で、残りは吸収率が20%程度の非ヘム鉄です。植物由来の食品の栄養素は、吸収しにくいことが難点です[4]。 肉由来の亜鉛は酵素の合成で重要な役割を果たします。肉類や肉製品はカルシウムやリンの化合物も豊富に含んでいます。カルシウム含有化合物は骨やエナメル質を作る材料となります。
肉類には、L-カルニチンという重要な栄養素も含まれています。この生物活性物質は、特に牛などの反芻動物の肉に多く含まれています。人体はL-カルニチンを十分に合成することができないため、必要量の75%は食事で摂取しなければなりません。肉由来のL-カルニチンは、生体への利用性が高く、脂質代謝により血中のトリアシルグリセロールとコレステロールの量を抑える重要な役割を担っています。また、エステル結合とそれによる有害な生体異物の排出を促します。さらに、乳酸の蓄積を抑える効果もあるため、運動機能を高めるのにも役立ちます。肉類は、カルニチン含有量(102.6 mg/100 g)と生体利用性(0.78)のどちらで比べても、牛乳(8.5 mg/100 mlと0.26)より優れています[5]。
肉類には何種かのビタミン類も含まれています。ビタミンB12は、リボヌクレオチド還元を促し悪性貧血を予防するなど、さまざまな役割を担いますが、植物からは摂取できません。これを肉の中でも特に多く含んでいるのは牛肉です。このほか、肉類にはアミノ酸を分解するビタミンB6をはじめ、ビタミンB9(葉酸)やB5も豊富に含まれています。これらが不足すると血液が劣化します。肉類からビタミンB1(リボフラビン)やB2(チアミン)が十分に摂取できないと、やはり人体は支障をきたします。リボフラビン欠乏は身体発育を阻害し、チアミン欠乏は神経系と心臓機能の異常および筋萎縮を伴う脚気につながります[6]。
肉類が有益な栄養素を豊富に含んでいるにもかかわらず、消費者は脂身が心血管疾患を引き起こすと考えて敬遠しがちです。しかし、実際に人体に影響を及ぼすのは、各種の脂肪酸、ステロール、そして脂溶性ビタミン類です。脂質の特性は遺伝や環境要因に左右されるため、家畜の品種改良や選定、飼料構成の調整などによって改善できます[7]。
栄養士と世界保健機関の異なる見解
一般的に栄養士は、脂身の多い肉類の摂取を控えるように勧めていますが、世界保健機関や国連食糧農業機関の専門家は、文明病を防ぐには、バランスのとれた食生活こそが重要であるとしています。
著者:
パートナー弁護士 ピオトル・ヴォダヴィエツ
食品技術者 アンナ・パクルスカ